宮城県栗原市 重要無形文化財 正藍冷染との出逢い Vol.4
~伝統工芸を守る人々~<最終章>
気付き発見メディア★a!Life★&一休さんナイガイ★記事コラボ企画!
古来平安時代から受け継がれる伝統染色技法 正藍冷染。国宝指定の伝統を受け継ぐ「正藍冷染」の着物を着たい!と、今年の秋に単の着物を仕立てました。現在は3代目が見守る中で、4代目となるご子息が継承しています。そして、この正藍冷染を一緒に守ろうと、裏で支える想いの深い皆さんに出逢うことができました。栗原という田舎町で感動を与えてくれた正藍冷染、最終章です。
1|巡り会っちゃいました!くりはら。
栗駒山の麓、大自然に抱かれた文字地区。田んぼと畑と森しかない小さな地区に、正直半年以上もかかわると思いもしませんでした。きっかけは、Vol1から連載してきた「正藍冷染」。特殊な染法で染め上げる藍の色に惚れ込んで、着物の単を仕立ててしまったという話なのですが…。
自然豊かな田舎、栗原。宮城で育った昭和世代の方には栗駒町や築館町方面などとお伝えしたほうがピン!とくるかもしれませんね。今回訪れた文字地区はまさに田園風景が美しい場所。直近では栗原市がドリームアンバサダーとして、狩野英孝さんを起用。自然豊かな栗原を「くりはらぁ~、くりはらぁぁ~」とPRしてくれています。その動画の中には、正藍染も♪ まさかここで、狩野さんに「巡り会っちゃいなよ!」と言われるとは思いませんで(;’∀’)
まさに、栗原(栗駒)で巡り会っちゃった「正藍冷染」でした。
2|正藍冷染を支える人々
千葉正一さんからご紹介いただいたお仕立て窓口 登米市の総合衣料店にお勤めの佐々木さん。千葉家をはじめ日本各地の着物に関わる方との繋がりもあり、まさに「人と着物を結ぶコーディネーター」。おたまの着物は、佐々木さんの持つ着物のプロの輪と技で仕立てられた単といってもで過言ではありません。 佐々木さんと出会わなければ、宮城(もはや日本)を代表する国宝級の染色技法について知る事もできませんでしたし、それを守る・伝承する影の立役者の皆さんにもお会いすることができませんでした。
モードステーションごとう 佐々木さん
和装・洋装 街の総合衣料店として地域に住む皆さんが頼る、モードステーションごとうの佐々木さん。正藍冷染の地元だからこそ、その伝統の大切さを知っている一人です。それゆえ生地の切れ端すら無駄にせず、つまみ細工やパッチワークを施して様々な小物を作ったり、小さな端切れから実用的な小物に仕上げたりします。「やっぱりね~、正一さんの仕事ぶりみているともったいないじゃない。ホント、もったいないのよ!」と、佐々木さん。 捨てられてしまう切れ端がひと手間かけた手しごとで形を変え、宮城の伝統工芸 正藍冷染を少しでも安価に、そして多くの人に知っていただくために多方面へ伝わるよう自らご努力をされています。
勿論、和服の伝承も佐々木さんのライフワークの一つ。所有する歴代千葉家コレクションの数々を拝見させていただいたのですが… これだけの作品が手元にあるという事は、それだけ千葉家の正藍冷染に近い存在という証。事実、3代目のまつ江おばあちゃんや4代目の正一さんとの会話の中にも、アドバイザーとしての提案があったり、親身なお付き合いをされてきたりしたからこその温かな会話が弾んでいました。 単仕上がりまでの過程の中で、無知な私に興味深いお話を聞かせていただいたり、織りや染めのアクティビティを体験するきっかけを作っていただいたり…、佐々木さんには感謝しかありません。
晩翠画廊 黒須さん
佐々木さんから、夏に展示会があるからいってみたほうがいいよ とアドバイスをいただき伺った晩翠画廊さん。こちらでは、毎年、千葉家の正藍冷染展を開かれているそう。
現在千葉家では、尋常ではない手間と労力がかかる先染めからの機織りは行っていないため、生地の模様は「型」によって染め上げられます。「今の正藍冷染に欠かせないものは、型なんです。なので、今回は『型』を使用した作品を主に展示することにしたんですよ」と、晩翠画廊コーディネーターの黒須さん。千葉家歴代の貴重な型をはじめ若手作家さんの可愛らしい型を使った正藍冷染の作品のほか、デイリーに使えるアパレルも販売されていました。型は初代あやのさんから代々受け継がれ、さらに新たな型を作成していくそう。使えなくなった型は、それでおしまい。また新しく作っていく必要があるのだそうです。そんな大切な型を惜しげもなく展示いただき写真に収めることもできました。 十字・変形の井桁など小さな模様が連なる型の細かさと言ったら… 繊細な手しごとでなければ生みだす事のできない模様が一枚の型の中にびっしりと彫られていました。
単に藍染といっても、様々な染め方があることを知った おたま。藍が持つ力によって発熱・発酵させる正藍冷染… まるで日本酒のようだと、ちょっと小躍りw 日本由来の発酵技術により食品はもとより、染物にも発酵が生かされているということに驚きでした。パネルで紹介されていた工程に合わせ、新しい型の作品を生み出す場合、型紙づくり・型付けを施し生地になるのだそう。ざっと年間通して20工程以上はかかるということです。雪解け以降の暖かな間、農作業の合間の仕事かと思っていたものの想像とは異なり、春夏秋冬 四季を問わず藍に向かわれている姿に心打たれました。染のほか、畑で栽培していた麻糸で機織りもされていた初代のあやのさん、どのような思いでこの型のひとつひとつの型彫りをされ、織られていたのでしょうか。時を遡ってお話を伺ってみたいものです。
手づくりアクセサリーや機織りのアクティビティを体験できるというのも、伺った一つの理由。正藍冷染の糸でどんなことができるのだろうとワクワク♪ 今回おたまは、初心者でも作りやすい平織のコースターづくりに挑戦! 経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交差させながら織り込んでいくのですが、上からトントンと横糸を押さえ込む力の入れ加減に悪戦苦闘。これが均一でないとスッカスカだったり目の詰まった織物になるそうで、楽しむどころか本気モード全開w 黙々とトントンを繰り返し20分後、織機から外すことができました。
端切れ・糸くずを無駄にしない方々の手しごとを拝見していたがゆえ、おたまのコースターも糸の処理をせずそのままお持ち帰り。カットする糸は少なくしたいと考えていたので、その糸にマクラメ編み加工を施し1.5倍の長さまで伸ばすことができました\(^o^)/ 大成功♪ 来年の作品展も楽しみの一つになりました。
作品展は、染のできる期間(初夏~盛夏)に毎年行われるそう。ご興味のある方は、是非晩翠画廊さんの公式サイトをチェックしてみてください。
和心にしおか 西岡さん
晩翠画廊さんのギャラリー入り口正面奥に美しくディスプレイされた反物。落款は無いものの、ひときわ存在感を放つ薄物の反物に目が惹きつけられました。直感的に「あ~~っっ!コレっっ!!」と感じた おたま。そう…これこそVol1.で紹介した千葉家4代目となる正一さんが先染めした糸で織られた反物でした。製作の音頭を取ったのは、京都で呉服卸業を営む「和心 にしおか」の西岡さん。
皆さまご存じの通り、今の着物文化というのはほぼハレの日にしか着用しない時代となってしまいました。つまり、デイリーユースではないという事。それが意味するのは「文化や伝統が衰退しつつある」ということです。その現状を改善・打開したいと、現存する染色技法を護持しつつ日本の伝統工芸の促進、そして、その技を若い世代に継ぐために「伝統工芸の継承プロジェクト」を立ち上げられた西岡さん。着物文化を広げるため、国内はもとより海外でも活躍されています。
40年前から着物業界に関わり、宮城は仙台平をはじめ全国各地の織物に触れあったそう。その中でも栗駒の正藍冷染の印象が強かったのでしょう。コロナで外出規制がかかる中、着物業界も大打撃。その時間を無駄に過ごすのではなく自分ができる事を、とプロジェクトを立ち上げ、2019年から様々な試行錯誤を繰り返しこの反物が出来上がりました。構想から仕上がりまで3年。とにかく大変だった… と語る西岡さん。
・用意した麻(大麻)糸があまりにも細く、通常の分量では着尺に仕上がらない…
・先染め用に用意した麻(大麻)糸に強度がなく織りの途中に切れてしまう…
・織機で織る際に、通常は6時間で着尺になるが、今回の場合は完成するまで10日かかる…
・上記状況を踏まえると、とんでもない費用が掛かってしまう… 等
問題山積み、事件勃発、様々な暗礁を乗り超え、やっと出来上がったこの反物。まさに、宮城の宝です。
西岡さんは、今回のプロジェクトにあたり以下のようにおっしゃいました。
「自分勝手にいろいろやったけど、一人では到底無理な話でしたね。様々な人との出会いがあり、夢物語のような難儀な工程を一つ一つ乗り越えられることができた。これは、繋がりと出逢いの反物。様々な人にアドバイスをもらい、助けられ完成することができた」と。そして続けて「これから先、作り手の職をも奪い、最後には継承の消滅にもなりえるかもしれない。このプロジェクトを続けることで伝統工芸を守り、作り手の地位向上と継手の育成に繋げていきたいんですよ。着物は着てみて、初めて綺麗さが生まれるし良さが分かる。そういう場を作ってもらいたいし、作っていきたい」と胸の内を語ってくれました。
取材中に知ったことでしたが… おたまの単の洗いを担当してくださったのは、なんと!西岡さん。綺麗な洗いをいただき本当にありがとうございました。
3|お披露目です!正藍冷染の先染め単
ただでさえ貴重な反物が、宮城の財産として本来の姿「単」になって戻ってきました。お披露目は2022年11月11日 栗駒町文字の千葉家で行われました。写真撮影は、藍染湖(荒砥沢ダム)水系の二迫川。千葉家で育てられた藍で染められ、工房の前を流れる川で濯がれ、栗駒の風に揺られながら干され… 一連の作業が行われた場所での撮影に、おたま感無量。お帰りなさい!先染め糸のみんな!!と声をかけてしまいましたw
この単の写真… 展示されていたギャラリーの色と全く違って見えますよね。それこそが草木染の持って生まれた特性を引き出したものなのです。植物性染料は、粒子が粗く糸に染色を施した際に糸の外側にも張り付くそう。そのため表面付近に留まった粒子に光があたると屈折率のいたずらで、鮮やかで奥深い色合いを生み出すのだとか。おたまが「外と中とで色が違うのよ~。なんかすごくない??」と有頂天で大騒ぎしていたのは、間違いではなかったようです(;^_^A
4|まとめ
10年ぶりに先染めを行ったという千葉家。染の時期前に大量の糸が送られてきて「あんどきはぁ、ほんと、まいったなぁ~www。でも、また一つ良いものができた」と笑う4代目 正一さん、そして「来年もまたお送りしますから、よろしく!www」と間髪入れず伏線を敷く西岡さん。また新しいプロジェクトが生まれる瞬間でした。宮城の伝統、日本の伝統をこれからも守り発信いただきたい、そしてこの単がたくさんの方に見ていただける機会があることを、心から願わずにはいられませんでした。
藍と生地や糸の加減や相性によって同じ色の再現は不可能な正藍冷染。唯一無二 私だけの着物です。色には、例えとして土地の名をつける場合がありますが… 正藍冷染に藍の色を付けるなら文字(もんじ)ブルーでしょう。日本の伝統染色技法 千葉家の正藍冷染を守る皆さんに感謝しながら、宮城県民としての誇り「Monji-blue」の後染め単の張り感をしなやかになるまで育て上げよう!と心に決めたおたまなのでした。
※主な参照リンクは、Wikipedia、栗原市公式チャンネルを参照しています
この記事を書いた人
おたま 体が動くうちに、と一念発起!大型自動二輪免許を50代前半で取得しました。温泉、日本酒とクラフトビール、釣った魚で作る料理が何よりの大好物。「ココロとカラダがヨロコブことを」が信条です。 何卒宜しくお願い致します。
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